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感情(かんじょう)とは、ヒト・動物、物事などに感じて抱く気持ちのこと。喜び、悲しみ、怒り、諦め、驚き、嫌悪、恐怖などがある(感情の一覧)。
精神医学・心理学では感情(英: emotion)と気分(mood)を区別することがあり、前者の方がより一時的なものをさす(しばしば天気 weather と天候 climate に例えられる)。しかし両者を区別せずに使用する場合も多い。脳科学的には、感情は大脳の表面(大脳皮質)、および脳の深部(辺縁系など)、身体の密接な相互作用で成り立っている。また感情と思考や認知は、たとえその人が意識にのぼらせなくても密接に関係し合っている(「感情の脳科学」節参照)。
ヒト以外の哺乳類も、大脳辺縁系の構造はヒトと類似していること、辺縁系の各部位の電気刺激や神経作用物質の投与により、不安・恐怖・怒りなどヒトの情動反応に類似した反応をみせることが古くから知られ、これらの動物にも感情(情動)があると推測されることも多い。しかし、比較認知科学的には研究が始まったばかりであり、あくまでも刺激と行動の相関関係が観測されているだけにすぎないとする主張もある。
感情の脳科学
生理学的には、感情には身体感覚に関連した無意識な感情と意識的な感情があるとされる。前者を(emotion, 日本語訳は情動)、後者をfeelingと言い分けることがある。意識的な感情(feeling)には、大脳皮質(大脳の表面)とりわけ帯状回、前頭葉が関与している。無意識な感情の情動には、皮質下(脳の中心の方)の扁桃体、視床下部、脳幹に加えて、自律神経系、内分泌系、骨格筋などの末梢(脳の外の組織)も関与する。
emotionについては情動を参照のこと。
たとえば我々が恐怖を感じるとき、同時に脈がはやくなり、口が渇き、手に汗を握るのを感じる。恐怖を感じているのは皮質であり、末梢の反応(動悸など)を起こすのは皮質下である。感情について考えるとき、両者を切り離して考えることはできない。
アントニオ・ダマシオは、スタンレー・シャクターらの情動の二要因理論を発展させ、感情を体験・認識することは、刺激に対して発生した身体反応を説明するために皮質が作るストーリーで あると主張している。例えば、被験者にアドレナリンを注射した後で不快な環境に置いたところ、アドレナリンの副作用を知らされていない被験者は、アドレナ リンにより起こった動悸や冷や汗などの反応を環境のせいにし不快がったが、副作用を知らせておいた被験者はアドレナリンのせいだと判断し、不快さも少な かったという。つまり皮質が、身体の反応を、前後の文脈と照らし合わせて解釈し感情というストーリーを作ったということになる。
マグダ・アーノルドの説では、外界からの刺激に対して、まず危険であるか有益であるかを皮質下で無意識に判断し、次に皮質でどう行動するかを判断し、次に末梢の反応(交感神経の興奮、骨格筋の緊張など)を起こし、最後に皮質にてそれを意識的な感情として認識するのだという。この説は、強い感情を惹起する視覚刺激を短時間(30ms以下)呈示すると、意識上は認識できない(サブリミナル効果参照)にも関わらず末梢では反応が見られるということなどからも支持される。
このような感情の仕組みは、生物として外界の変化に素早く反応するために適応的な反応であり、進化の過程で身につけたと考えられる。(感情に対する進化生物学的な観点からの考察については、進化心理学を参照のこと)
- 補足1
- 上記したような身体と感情の密接なつながりは、感情に関係する日常的な言葉にもよくみられる。例えば、「胸が痛む」、「断腸の思い」、「血湧き肉 躍る」、「手に汗握る」、「胸をおどらせる」、「腹が立つ」、「はらわたが煮えくり返る」、「頭に血が上る」、「むかつく」、「苦々しい」、「鉛を呑んだ ような」、「ちむぐりさ(=肝苦しい、沖縄方言)」など。このうちの幾つかは典型的な交感神経亢進反応であり、幾つかは消化管症状である。
- 補足2
- 精神疾患の治療に用いられる認知行動療法は、「認知の仕方を変えることによって感情を調整する」という理論に基づいており、皮質と皮質下の相互作用を応用した好例と言える。また、自律訓練法は「手が暖かい」「気持ちがおちついている」など、リラックスした身体状態をイメージしながら心身の緊張をとる訓練法であり、ストレス解消、心身症、神経症などの治療に用いられる。これも末梢の自律神経反応と感情の相互作用を応用した一例である。
感情の分類
人間にはどのような感情があるのかについては古来様々に議論されてきた。詳しくは感情の一覧を参照。
中国の五情(ごじょう)
人間の持つ代表的な感情を、
- 喜 (よろこび)
- 怒 (いかり)
- 哀 (かなしみ)
- 楽 (たのしみ)
- 怨 (うらみ)
の五つにまとめて表す。
三字経
「曰喜怒、曰哀懼、愛悪欲、七情具」とあり、
- 喜
- 怒
- 哀
- 懼 (おそれ)
- 愛 (いとしみ)
- 悪 (にくしみ)
- 欲
の七情が人にそなわっていると言う。
六情
一般に、6種類の代表的な感情として、
- 喜
- 怒
- 哀
- 楽
- 愛 (いとしみ)
- 憎 (にくしみ)
が総称されることが多い。
部首が「心」で感情を表す漢字
- 忌 (いむ) ・忍 (しのぶ) ・怒 (いかる) ・恐 (おそれる) ・恥 (はじらう) ・恋 (こい) ・悲 (かなしい) ・愁 (うれえる) ・慕 (したう) ・憂 (うれえる) ・怪 (あやしむ) ・怖 (こわい) ・悔 (くやむ) ・恨 (うらむ) ・惜 (おしむ) ・悼 (いたむ) ・愉 (たのしむ) ・憎 (にくむ) ・憤 (いきどおる) ・懐 (なつかしむ) 等々。
感情を表す和語
感情を表す形容詞および形容動詞 (例:かなしい) 、その感情をいだいている/いだく動作を表す動詞 (例:かなしむ) 、抽象化された名詞 (例:かなしみ) を示す。ただし、「愛する」「嫌悪する」の様に「 (漢字) +〜する」は漢語が混ざっているため除いた。
- 形容詞および形容動詞
- かなしい・うらがなしい・ものがなしい・みじめだ・やるせない・たのしい・うれしい・しあわせだ・めでたい・いまわしい・はずかしい・うらめしい・にくたらしい・いやだ・きらいだ・さわやかだ・いつくしい・いとおしい・つまらない・おそろしい・こわい
- 動詞
- このむ・よろこぶ・いかる・おこる・かなしむ・おそれる・はじらう・はにかむ・うれえる・あやしむ・うらむ・にくむ・いきどおる・むかつく・きらう・けぎらいする・めでる・うんざりする・あきる・びびる
- 名詞
- よろこび・かなしみ・いかり・うらみ
インドの伝統的な美学理論
ナヴァ・ラサ (人間の9つの基本的感情) というものがあり、それは、
- シュリンガーラ (恋愛感情;恋する気持ち、愛する気持ち)
- ハースヤ (滑稽な笑い)
- カルナ (悲しみ)
- ラウドラ (怒り)
- ヴィーラ (勇ましい気持ち、活力あふれる気持ち)
- バヤーナカ (恐れ)
- ビーバッサ (嫌悪)
- アドブタ (驚き)
- シャーンタ (平和)
の9つであるとされる (参考 ラサ) 。
チャールズ・ダーウィン
悲しみ、幸福、怒り、軽蔑、嫌悪、恐怖、驚きという七つの基本的感情が、文化によって異ならず、普遍的に同じ方法で表現されると考えていた。また子供の成長やオランウータンの感情表現の観察を通して、人間と他の霊長類の類似性を見いだした。
心理学的な感情の分類
- 表情認知からみた感情の分類
- 喜び、驚き、恐れ、悲しみ、怒り、嫌悪
感情が冒される疾患や状態
- 感情・気分が冒される疾患の代表的なものは気分障害(うつ病、躁うつ病、躁病な ど)である。うつ病では抑うつ気分(落ち込んだ、疲れた、元気のない、悲しい、泣きたいような、嫌になる、死にたい、絶望的)を呈するが、躁状態では気分 が爽快になり、元気で、活気にあふれている、自信満々、動き回りたいなどの気分を呈する。重症になると攻撃的な気分、怒りが前面に出てくる。
- しかし抑うつ気分を呈する疾患はうつ病だけではない。適応障害、統合失調症、摂食障害、人格障害など様々な疾患に合併することがある。また、精神疾患に限らず、健康な人でも一時的に抑うつ的になることはよくある。
- 大脳辺縁系の一部をなす扁桃体やその周辺が破壊されると、Kluver-Bucy症候群と呼ばれる、性行動異常、情動異常(サルの場合、ヘビを見ても全く怖がらず触ろうとする)、口唇傾向などを特徴とする状態になる。
- アレキシサイミア(alexithymia)は、精神医学の用語で、自らの感情を自覚・認知したり表現することが不得意で、空想力・想像力に欠ける傾向のことをさす。この傾向を持つ人は心身症になりやすいといわれている。つまり自らの感情を認識することが苦手なため、身体の症状として現れてしまうという(詳しくはアレキシサイミア、心身症参照)。
イスラム世界
音楽が人間に与える感情を利用して医療行為としての音楽療法が行われていた(ユーナーニー医学)。
感情に作用する薬物
- 抗うつ薬:抗うつ薬はうつ病、うつ状態の治療薬であり、落ち込んだ気分、意欲低下などを改善する。セロトニン系、ノルアドレナリン系、ドパミン系神経を賦活することで効果を発現する。抗うつ薬によってその3系統の神経系への働きの強さが異なり、薬剤ごとに薬効が異なる。
- 抗不安薬:ベンゾジアゼピン受容体に働くことで、不安を取り除く作用がある。
- 違法な薬物である覚醒剤は、脳のドーパミン系を強く興奮させることで快の気分を発現する。しかし同時にドーパミン系神経の異常を来たし、様々な副作用・後遺症を来たす。
- その他にも、アルコール、ステロイドなど様々な薬物が感情に作用する。
感情を分析する医療用工学技術
- 情動:感性制御技術の分野における、韻律からの感情認識がある。医療用工学技術としては、情動は興奮において90%以上の認識精度を持つが、感情は個人の認知ラベルの影響差があり、そこまでの精度は保障されない。
- 感情認識:独立行政法人・情報通信研究機構の研究において、fMRI用に使用可能な感情認識は音声からの感情認識ST(日本SGIが日本総販売代理店)である。しかし、音声が出ない状況では使用できない。
- その他にも、徳島大学などでは、表情からの感情認識の研究がされている。
関連項目