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汎心論(はんしんろん、Panpsychism)とは、あらゆるものが心的な性質を持つ、とする世界観全 般にたいする呼称。『汎心論』という名の具体的な理論があるのではなく、様々な考え方が汎心論という名前のもとにひとくくりに表現される。そこに含まれる 考えの殆どは宗教的・歴史的なものであり、真剣な議論の対象というよりも、標本的に調査されている。現在、真剣に議論されているのは、心の哲学の分野にお ける汎経験説が中心である。
汎心論とは
汎心論と呼ばれるものには大きく分けて次の三種類のものがある。
- 有史以前から見られる、原始信仰としてのアニミズム的世界観。およびそれに類するもの。
- 観念論または唯心論。
- 心の哲学の分野において、創発説に対立するものとして語られる汎経験説(Panexperientialism)。
どれも同じ汎心論という名を冠されることがあるが、その具体的内容も、それぞれの考え方が生まれてきた背景も大きく異なるため、注意されたい。
アニミズム
タイラーのアニミズム
アニミズム(汎霊説)とは山や風、海や川といった全てのものに、物理的な要素とは別に、霊魂や精霊といった霊的な存在が宿っているとする考えのこと。英国の人類学者 E.B.タイラーによって1871年に提唱された言葉。アニミズムは世界中の民族に、古くから広く普遍的に見られる思考形態であり、文化人類学や宗教学といった分野で研究の対象となっている。霊魂や精霊といった存在を神として捉える場合は、汎神論(Pantheism)として扱われる場合もある。「八百万の神」などと言われるように日本の神道などもアニミズム的な思想的背景を持ち、森羅万象に神を見る。詳しくは記事「神道における神」 を参照。こうしたアニミズム的な世界観が事実に基づく正しい主張であると考える研究者は皆無だが、多くの民族に広く見られる思考形態であることから、「一 体人は何故このような方法で世界を把握するようになりやすいのか」といった観点から広く研究が行なわれている。次項のピアジェのアニミズムはそうした問題 意識に根ざした、心理学の世界の用語である。
ピアジェのアニミズム
心理学、とりわけ発達心理学の分野では、上と似てはいるが、若干違った意味でアニミズムという言葉が使用される。子供はその成長段階のある時期(およそ2歳から7,8歳ぐらいの間)において、すべての対象を心を持つ存在と考える傾向、すなわち擬人化して捉える傾向があることが知られている。こうした傾向のことを心理学の世界ではアニミズムと呼ぶ。上述のタイラーのアニミズムにちなんで、1968年、スイスの心理学者 ジャン・ピアジェによって命名された。例えば子供が自分の持っているぬいぐるみが、喜んだり、痛がったりしている、と素朴に信じているのは、こうしたアニミズム的思考の典型である。このピアジェのアニミズムも汎心論的世界観のひとつとして扱われることがある。
観念論または唯心論
観念論または唯心論は意味にかなり幅のある言葉である。しかしその中でも極端な形をとる場合、例えば18世紀前半のアイルランドの聖職者ジョージ・バークリーに よって提唱された物質否定論では、この世界に本質的に存在するのは心的なものだけであり、物質的なものはそこから派生した見せ掛けの存在にすぎない、と いった考え方をする。この考え方に従うならば、当然すべての存在は、その本質として心的である。そして心的でない存在など何一つ有り得ないことになる。こ うした観念論は、ときに汎心論のひとつとして語られる。対立する立場は唯物論である。
汎経験説
汎経験説とは、現象的意識・クオリアといった心的経験が、脳や神経細胞といった巨視的なスケールではじめて生まれるのでなく、もっと根本的なレベルにおいて、すでに何らかの形で存在しているはずだ、という考えのこと。すなわちクォークやレプトンといった、物理現象の基本構成要素自体に、現象的意識やクオリアの元となる何らかの性質(原意識)が含まれているのではないか、とする説。こうした汎経験説は、1990年代ごろから集中的に議論されるようになり、現在、心の哲学を中心にその詳細が議論されている。代表的な論者にデイヴィッド・チャーマーズがいる。歴史的にはこうした考え方(世界を構成する基本要素として心的な性質が遍く存在しているという考え方)は別に真新しいものではなく、例えば17世紀後半のドイツの数学者ゴットフリート・ライプニッツによって提唱されたモナドロジーにおいても、そうした世界観が提示されている。こうした考え一般に対立する立場にあるのが、創発説である。創発説では、物質がある巨視的なレベルで特定の配置を取ったとき、初めて現象的意識やクオリアといった心的経験が創発する、と考える。